【コラム:お薬の大変身】:新しく生まれ変わるお薬。その方法と問題点とは??
こんにちは!Ph.塩です。
今回は「コラム:お薬の大変身」です。
お薬の大変身の中でもとても有用で大事な変身です。
その名も「ドラッグ・リポジショニング」
すでにある薬や、開発段階の途中で開発がストップしてしまった薬を、当初の想定と違う病態や疾患に対する治療薬として開発することを「ドラッグ•リポジショニング」と言います。
まるで「糊を作ろうとして失敗したが転用して付箋に生まれ変わった」という秘話にそっくりなお話のようですね、いわゆる発想の転換とも言えるでしょう。
近頃は特に注目されるようになっていますが、実はこういった考え方は薬の世界でもあったのです。
ドラッグ•リポジショニングで開発された新しい薬は既存の薬と対象にする疾患や病態と大きく異なるといえことで別の名前を持った新薬として認められることもよくあります。
名前が違うだけで、薬効成分は同じ。なんだか変な話のような気もしますね。
今回はそんなドラッグ•リポジショニングについてご紹介します。
目次:
1.ドラッグ・リポジショニングで生まれた薬にはどんなものがあるの?
2.ドラッグ・リポジショニングは偶然の産物なのか?
3.ドラッグ・リポジショニングのデメリットは?
最も有名な例は「バイアグラ(成分名:シルデナフィル)」です。これはED治療薬として一般にも広く知れ渡っていますよね。
ですがこのお薬はもともと狭心症治療薬として開発が進められていました。
この「転用」はなんと1998年ごろに行われており、意外と昔からドラッグ•リポジショニングは行われているんですね。
そしてなんと2008年、「レバチオ」という別の商品名で肺動脈性肺高血圧症治療薬として再び世の中に出てきたのです。
3回もの転身、凄いですよね。
でも実は3回転身している薬剤は他にもあります。
シルデナフィルと同じくホスホジエステラーゼ5(PDE5)という酵素の働きを阻害して、血管や尿道の周りの筋肉を弛緩させるタダラフィルという薬剤はED治療薬「シアリス」、肺動脈性肺高血圧症治療薬「アドシルカ」、前立腺肥大症に伴う排尿改善薬「ザルティア」と、3つの顔を持つ薬剤です。
他にも以下の様なドラッグ•リポジショニングにより同一成分で複数の製品名を持つ薬剤があります。
成分名:レバミピド
会社名:大塚製薬
胃炎、胃潰瘍治療薬「ムコスタ」(1990年)
ドライアイ治療薬「ムコスタ点眼液」(2011年)
成分名:ゾニサミド
会社名:大日本住友製薬
抗てんかん薬「エクセグラン」(1989年)
抗パーキンソン病薬「トレリーフ」(2009年)
成分名:ラモセトロン
会社名:アステラス製薬
抗がん剤投与時における消化器症状改善薬「ナゼア」(1998年)
下痢型過敏性腸症候群「イリボー」(2008年)
成分名:デノスマブ
会社名:第一三共製薬
がん骨転移に対して「ランマーク」(2012年)
骨粗鬆症に対して「プラリア」(2013年)
などなど...
これは数例に過ぎませんが、10年以上たってからや、一見全く関係ない病態へのドラッグ•リポジショニングがあるんですね。
ドラッグ・リポジショニングは、開発にかかるコストや期間を大幅に節約できるために企業にとってはとてもありがたいお話です。
医薬品は最初のターゲット化合物の発見から臨床で使われるまでに数え切れない試験をクリアし、想像を絶する莫大な資金を使っています。
万が一途中で頓挫したり開発失敗という話になれば会社自体が傾きかねません。
すでにあるデータを使用できるドラッグ•リポジショニングは研究段階での試験もある程度スキップすることができます。
そして成功する可能性が高い化合物を元に使用するために1から開発するよりも非常にリスクが低くなると言えるでしょう。
こういうことからもともとは偶然の産物であったドラッグ•リポジショニングは、徐々に計画的に行われるようになりました。
治療の選択が増え、企業が積極的に新薬の開発に勤しめるドラッグ•リポジショニングは、厚生労働省も「医薬品産業強化総合戦略」のなかで促進しています。
例えば、抗血小板剤「プレタール」(シロスタゾール)を認知症に適応可能(国立循環器病研究センター)や高脂血症治療薬スタチンを軟骨無形成症に適応可能(京都大)などです。
こうしたお薬を始めとしてどんどんドラッグ・リポジショニングは行われる傾向にあります。
企業の中でもドラッグ•リポジショニングの専門部署を設置し、会社をあげて取り組んでいるところもあります。
考え方によっては今までの薬の新規市場開拓にもつながる話ですから、今後どんどん企業の動きも活発化していくでしょう。
このようにいいところをたくさん紹介してきましたがもちろん課題もあります。
その最たるものはお薬の値段です。
ドラッグ•リポジショニングによって生まれた薬剤と、その元の薬剤とは違う値段で市場に出回ることになりますが、当然用途も対象患者さんの母体数も違いますので違う値段がつきます。
その値段の差によっては背景を知っている医療従事者からすると首を傾げざるを得ないこともあります。
例えば上記の「トレリーフ」(ゾニザミド)と「エクセグラン」は計算方法によっては100倍を超える薬価の差が生まれるという見方ができます。
同じ成分なのに!と普通は使っている患者さんは思いますよね?
流石に「トレリーフ」の薬価はあまりにも元の薬品とかけ離れていたために一般のメディアでも取り上げられ、薬価制度改革では、このようなドラッグ•リポジショニングによる薬価の高騰が起きないようにするためのルールの見直しが行われました。
しかし製薬企業からしたら「開発コストを抑えられているとはいってもそれなりにコストはかかっているのでジェネリックなどと異なる。薬価を低く抑えられては困る!」という意見が出ております。
それでも「適応がただ広がっただけのようなドラッグ•リポジショニングにおいて、薬価が100倍以上にもなるのは理解しにくい」という有識者の意見もありました。
企業はボランティアではなく、利益追求型の組織です。そういった組織が利益を求めるのは当然ですがその線引きが難しいようですね。
しかし開発のコストが下がれば新薬の開発に着手しやすくなり、オーファンドラッグ(希少疾病向けの薬剤)を作成することへのハードルも低くになってきます。
つまり、ドラッグ•リポジショニングがうまく回れば巡り巡って世界中の患者さんのためにもなるのです。
様々な課題はありますが、世の中の仕組みがうまく回ってよりより治療が出来るようにお薬が増えていくと嬉しいですよね.。
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