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【岐阜市民病院の医療事故事例】:我々はどのように対策するべきなのか?

こんにちは!Ph.塩です!

 

今回は「岐阜市民病院薬の薬大量投与による女性死亡事例」についてです。

 

以下、岐阜新聞からの引用です

 

 岐阜市民病院は30日、昨年12月に脳症の70代女性患者に対し血糖値を確認せず大量のステロイドを投与したため、高浸透圧高血糖症候群で死亡する医療事故が起きたと発表した。患者が糖尿病であることを担当医が忘れていたことが原因。病院は全面的に過失を認め、遺族に賠償金2033万1479円を支払うことで示談した。
 同院によると、女性は意識障害で入院、発症率が極めて低い自己免疫疾患「橋本脳症」と診断された。昨年12月1日から点滴でステロイドを大量に投与したところ、9日後に脱水などの症状が現れ始め、12月11日に死亡した。ステロイド大量投与は、血糖値を上昇させる副作用がある。
 女性は糖尿病を抱えていたが、担当した内科の男性医師は血糖値の確認を一度も指示していなかった。
冨田栄一院長は会見し、「(男性医師は)極めて珍しい病症に気を取られ、血糖値のモニタリングを失念してしまったようだ。チーム医療が機能せず、反省している」と陳謝した。
市は損害賠償支払いに関する議案を9月2日開会の市議会に提出する。

 
引用ここまで。

 

このような事例は医療の世界ではどういった位置づけなのでしょうか?

また痛ましい事例に対して我々はどのように対策をしていけばいいのでしょうか?

 

今回はこういった問題にクローズアップしていこうと思います。

 

目次:
0.始めに
1.この類の医療ミスはあり得るのか
2.責任の取り方について
3.最後に

 

 

0.初めに

 

非常に痛ましい事件であり、被害者の気持ちを考えるととてもいたたまれません。

 

もし身内がこのようなミスに巻き込まれたとしたらやるせない気持ち、言いようのない負の感情に襲われるでしょう。

 

また、糖尿病患者に対するステロイド投与中の血糖値モニタリングはルーチンワークとして取り組むレベルの話であり、決して主病が珍しかったから、ということは言い訳になるものではありません。


遺族が今後この問題に対してしっかり向き合い、乗り越えて行くことはとても困難でしょうが、なんとか乗り越えていかれることを願っています。

 

1.この類の医療ミスはあり得る話なのか?

 

非常に痛ましいミスでありながら、病院で勤務している者の立場からすると、実はこれはあり得ない話ではありません

 

明日は我が身、というと聞こえが悪いですが、身にしみて自分のこととして捉える必要があるでしょう。

 

私たちは最新の注意を払いながら土日も夜も患者さんの病態を気にかけて仕事はしています。


ミスを許さないようなダブルチェック、トリプルチェックがなされるように人的システムを組んでおり、技術的なソフトウェアとしても多くのシステムを導入しています。

 

そうはいっても、最終的には仕事は人間がやることです。0.1%までミスを発見できる人間が3人集まっても0.001%にまでしか減らせません。

 

ミスを犯す確立も、ミスの数も決して0にはならないのです。

 

ここでヒヤリハットという有名な法則があります。

 

これは、1件の重大なトラブルの裏には29件の軽微なトラブル、300件のニアミスが、含まれているという法則であり、日々気がつかないレベルの「ヒヤリ」とすることが積み重なってトラブルに繋がっているという考え方です。

 

このヒヤリハットの事例を医療施設は集積していて、各部署から集められた事例を研究することでミスのないシステム作りをしています。

 

今回の事例も、しっかりと研究し2度と起こらないようにするべきでしょう。

 

2. 責任の取り方について

 

日本の社会では誰かが責任を取る仕組みになっています。つまり、辞めたり免許剥奪だったり転勤などですね。

 

これは個人的にはあまり良くないシステムだと思っています。

 

もちろん、このような事例を起こしたとわかっている医師と、このような事例を起こしたことが無い医師の自分がどちらに診てもらいたいかといえば多くの方が後者を選ぶでしょう。

 

しかし、後者の医師の初めての医療ミスが自分に回ってくるのかもしれません。

 

逆に前者の医療ミスを経験した医師は2度とこのようなミスを犯さないでしょう。

 

少なくとも今回の事例の医師はステロイド投与時に血糖値のチェックは何度も何度も繰り返すようになると思います。

 

人はミスして成長するものです。

 

車の運転も何度かヒヤリとしたり失敗したりして上手になったり、スポーツもケガをしたりして上手になっていくものです。

 

今回は人命が関わり、事が重大すぎるために難しい問題ですが是非ともこの医療ミスを起こした原因を徹底的に調べ対策し、人間を責め立てるのではなく今後の方針決定に生かしてほしいですね。

 

3.最後に

 

今回の院長先生の「チーム医療が機能せず反省している」という言葉には少し引っかかります。


チーム医療が必要とされているのはお互いの専門分野を生かしてより高度な医療を行うという目的があるからです。


他人のミスを発見するという点ではもちろんチームで行うことでより一層監査の目が増えますので喜ばしいことですが、反省点としてチーム医療を挙げるのはすこし違和感を感じました。

 

そういったことを反省点として挙げるならば今後はミスの対策はチームの人数を増やして取り組むという話にもなりかねません。


責任を分担することが目的ではないでしょうから、チームで治療を行わない場合にもミスが監査されるようなシステム作りを目標とするべきでしょう。

 

※追記

当院の看護師さんともこの事例に関しては話題に上がりました。

やはり糖尿病患者さんに対する血糖測定は指示がなくとも気にかけることは普通であり、1週間も放置ということは少ないようです。

 

そういったことを考えるとこの患者さんの糖尿病というのは未治療で薬物治療を特にしておらず、採血データでもたまたま血糖値が低く出てしまったのかもしれません。

 

 

しかし記事には「医師が忘れていた」という記載があるため気がつかなかったというわけではいないでしょう。

 

そう考えると、業務全体を見直す必要がありそうな事例ですね。