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【麻薬】 医療用麻薬と危険ドラッグとの違いは?

こんにちは!Ph.塩です☆


今回は「麻薬」についてです。


麻薬というと皆さんはどんなイメージを持っていらっしゃるでしょうか?

 

多くの方が乱用や密売などの悪いイメージを持っているのではないでしょうか?笑

 

確かに近頃は残念ながら危険ドラッグのニュースが頻繁にささやかれていますね。
こういったニュースが多いとなかなか誤解を生んでしまいそうです。


しかし実は麻薬は無ければ医療が成り立たないほどの良い薬なんですよ!!


今回はそういった麻薬による治療の一端をご紹介したいと思います。

 

目次

・医療用麻薬って何?

・医療用麻薬って何に使用するの?

・麻薬って副作用はないの?

・麻薬を使用し始めたら人生終わり?

・麻薬まとめ

 

医療用麻薬って何?

 

麻薬という薬は大きく分けて、医療用麻薬違法麻薬に分けられます。

一般的なイメージの麻薬というのは多くの場合違法麻薬でしょう。

 

これは耐性がすぐに出来るので今まで使用していた量では満足できなくなり、どんどん以前より多く使用したくなるという特徴を持っています。


しかも多くの麻薬が「S」、「ヒロポン」、「フラッシュ」などの聞こえの良い名前をつけられて、すぐには麻薬とわからない形で販売、転売、譲渡が行われていますので罪の意識も薄れていきます。


これらはその名の通り違法麻薬ですので、もちろん法律で管理されていません


それに対して医療用麻薬はしっかりと法律でその取り扱いについて厳重に管理されていて、許可された医療施設でしか使用はできません

 

また法律で管理されているので、1錠でもその行方がわからなければ医療施設は厳重に罰せられてしまいます。

 

1度ならまだ業務改善命令で済む可能性がありますが、2度、3度と繰り返してしまった場合その病院が麻薬を使用してはいけないという処分が下される可能性もあります。


特に大きな病院になるほど日常的にとても多くの麻薬を使用していますので、その中で1つでもミスが無いように運用することは実際の所はなかなか難しいことです。

 

そのため医療従事者は麻薬の取り扱いに関してとても気を遣っているんですね。
我々薬剤師もどんなに忙しくても麻薬の取り扱いをしている時は時間をかけて確認をします。


ちなみに医療用麻薬の種類には以下の薬があります。

・モルヒネ
・オキシコドン
・フェンタニル

 

これらは化学構造式を少しずつ変えて作られています。
また準麻薬(トラマドール)という区分もあり、麻薬のように働くが麻薬ほどの力はないという区分のお薬もあります。

 

一つの麻薬が効かない場合に他の選択肢が無くなってしまうので、その場合には3つのうち他の薬剤に変更します。


これらの医療用麻薬のことをオピオイドと呼んでおり、薬を切り替えて治療を行うことを「オピオイドスイッチング」といいます。


オピオイドの種類にも注射、坐薬、飲み薬、貼り薬と多くの形になっていて、口から飲めない患者さんにも使用できるようになっています。

 

またそれぞれの薬の強さ、薬の副作用は個別に違いがあり、強さを考慮してオピオイドスイッチングを行ってもその人の薬の代謝能力などによって効きやすかったり効きにくかったりします。

 

ですので、オピオイドスイッチングの時には入念に理論上の計算は行いますが、実際の効果のほどは使ってみて継続的に確認することが大事なんですね☆

 

医療用麻薬って何に使用するの?

 

「痛み」に対して使用します。


この痛みというのは多くの場合「がんによる痛み」ですが、整形領域の痛みにも手術にも使用しています。


特に海外では痛みに関して医療用麻薬を積極的に使用していて、なんと町の薬局でも購入できてしまいます

 

私も病院で勤務していて海外渡航歴がある患者さんが医療用麻薬を持ち込んでこられる経験は多くあります。


「どうしてこの薬を使用したんですか?」と聞くと、「ちょっと腰が痛くて」と返事が返ってくることもあります。

 

それほどに海外では痛みに対して積極的に医療用麻薬を使用しているんですね。
これは非常に良いことで、日本人は我慢しすぎだと言われていることもあります。


それなのに、ロキソニンなどのNSAIDsに対してはどんどん使用する傾向にあると言われており、疼痛に関してはまだまだ欧米に遅れをとっていると言わざるを得ません


もちろん日本と比べて危険ドラッグなどの違法薬物の事件や問題は海外の方が根深いため、麻薬をどんどん流通させれば良いという問題でも有りませんが。


日本では危険ドラッグなどの報道によって麻薬は怖い物だという認識が広まっている事も医療用麻薬があまり使用されない原因の一つでしょう。


正しい医療用麻薬の理解をどんどん広めて、より痛みの少ない医療にしたいですね。

 

麻薬を使う事でどうして痛みが取れるの?

 


少しマニアックな話ですがお付き合いください笑

 

私たちの体内には「受容体」と呼ばれる薬に感度が高い部位があります。
そこの受容体に薬がくっつくと薬理作用が発揮されるのです。

 

体内にはモルヒネなどの麻薬がくっつく「オピオイド受容体」と呼ばれる部位があります。

 

このオピオイド受容体にはμ(ミュー)、δ(デルタ)、κ(カッパ)の三種類があり、これらがそれぞれに働きかけています。

 

μ受容体....鎮痛作用、多幸感、精神身体依存の形成
δ受容体....鎮痛作用、多幸感、精神身体依存の形成
κ受容体....鎮痛作用、鎮静作用

 

このμ受容体やδ受容体を麻薬が刺激することによって痛みが取れるのですが、痛みがある状態ではκ受容体はμ受容体やδ受容体を抑制していて鎮痛作用も抑えられているだけではなく精神身体依存の形成も抑えられている状態です。

 

ですから痛みがある状態で麻薬を使用してもκ受容体が活発になっているため精神身体依存の形成がされないのですね

 

こういった理由で痛みがある限りは医療用麻薬を使用しても薬物乱用にはならず、依存しなくて済むのですね。


ただしもちろん痛みが無い状態で麻薬を使用すれば多幸感や精神身体依存の形成を促しますので違法麻薬と同じように依存してしまう可能性があります。


医療用麻薬の説明で「適切に使用すれば問題ない」とあるのはこういった痛みとのバランスをしっかり考えて使用しましょうという事なんですね。

 

麻薬って副作用はないの?

 

あります。

 

もちろんこの副作用というのは多幸感を得ることや依存することではありません。

 

主に「便秘」、「吐き気」、「眠気」が出てきます。


ただし吐き気、眠気に関しては耐性が出来ますので、麻薬を使用し始めて1週間~2週間もすれば感じなくなってくるでしょう。

 

便秘に関しては慣れることは無いので、あまりに便が出なければ下剤を使用することもよくあります。

 

また痛みがなんらかの理由で落ち着いているときに麻薬を使用すると前述の理由で痛みとのバランスが取れず一時的に過量になる場合があります。


その場合はすぐに耐性形成や依存となるわけではなく、眠気や吐き気として副作用がでてくることが多くあります。

 

この様な副作用を確認しながら麻薬の量を調節することが大事になってきます。

 

麻薬を使用し始めたら人生終わり?

 

このように考えている方は非常に多いです。

 

答えとしては「終わりじゃない」となります。

 

痛みの段階は3段階に分けられ、そのステージによって使用する薬剤も異なってきます。

弱めの痛みに対してはロキソニンのようなNSAIDs
中くらいに痛みに対してはNSAIDsに加えて準麻薬(トラマドールなど)
強めの痛みに対しては医療用麻薬

 

またこのそれぞれに対して「鎮痛補助剤」というそれ自体では痛みを抑える力は強くないが、補助的に使って効果のある薬などがあります。
鎮痛補助薬には「サインバルタ」、「リリカ」、「テグレトール」などがあります。


ですが近頃は学会などでこの弱め~中くらいという考え方を止めたらどうか、という発想が有力になってきています。


つまり、痛みの程度が弱いと判断してちまちまと調節するよりも、痛みをしっかりと抑えるように最初から麻薬の導入を考えるという事です。


もちろん指を少し切った、どこかに軽くぶつけたという痛みに対しては麻薬を使用すると前述の理由で依存形成の方に働いてしまうのでよくありません。

 

ですががんの痛みで苦しんでいる人や、椎間板ヘルニアのような極度の疼痛が問題になる場合に麻薬の導入は躊躇するべきではありません。

 

こうした痛みや苦しみのケアのことを「緩和ケア」といいます。

 

緩和ケアというと、一昔前は「もう亡くなっていくとわかっている人の最後の終末期的治療」という発想の元行われていました。


緩和ケアが導入されると言うことは、例えば抗がん剤治療などの積極的な治療を全て取りやめて、痛みや苦しみを取り除きながら最後を迎えるという前提のもと行われるものだったのです。
こういった事から今でも緩和ケアを行います、とか緩和ケア病棟に入院しましょう、という話になると人生が終わらせられた様な気持ちになる方も少なくありません。

 

ですが現在では緩和ケアは積極的なものとなっていて、治療を行っている状態と平行して行うという事が前提になっています。
むしろ治療の前から緩和ケアを導入することは珍しくありません。

 

痛みに我慢して我慢して治療を行っていくという時代はもう終わったのです。

 

緩和ケアは痛みが無くなっていけばそこで終了しますし、緩和ケア病棟への入院も希望したり必要がなくなれば退院することも多いです。

麻薬は使用を始めたら死ぬまで使用するという事もありません。

 

こうした医療用麻薬の積極的な導入が進められていること、緩和ケアの導入時期がとても早くなってきていることから、医療用麻薬を使用し始めても終わりに向かっている状態を指しているわけではないことが想像できると思います。

 

また緩和ケアを導入せずに苦しみながら治療をするよりも、緩和ケアを早期に導入して苦しみをしっかりと取り除きながら治療を行うことが治療効果をより高めるという報告もあります。

 

こうした意味でも緩和ケアの中で使用されている医療用麻薬はとても重要なものなんですね。

 

麻薬まとめ

 

いかがでしたでしょうか?

 

麻薬は危ない、麻薬はいけない、といった情報があふれている中、その中でも医療用麻薬と違法麻薬に分けられており、医療にも必須な麻薬があることがおわかりいただけましたでしょうか。


乱用した場合に危険性があるものは麻薬に限りません。食品も同じ物を極端に食べれば体に異変が起こることもありますし健康に良くありません。


麻薬の場合は極端に使用した場合の結果が危ないという点で指摘があるだけであり、コントロールすればとても良い薬になります。

 

もし何かしらの病気などで痛みが激しい場合、麻薬が処方されたりしても怖がることなくしっかり管理しながら使用していきましょう☆

 

以下の記事もご興味があればご覧ください、NSAIDsについて書いてあります。

 

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