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【オプジーボ】 最も話題の抗がん剤の最近の知見とは?

こんにちは!Ph.塩です!


今回は「オプジーボ」についてです。


このお薬は最近最も注目されている薬剤の一つで、抗がん剤の一種です。


今回は
1.抗がん剤ってどうやって効くのか?
2.抗がん剤の中でもどうしてオプジーボは注目されているのか?
3.  最近発表された安全情報に関して

4.   まとめ

ということを実際に使用している現場からお伝えしようと思います。

 

1.抗がん剤ってどうやって効くの?


抗がん剤は大まかに分けて「細胞を殺す抗がん剤」と「特定の分子を狙って効く抗がん剤」があります。

「細胞を殺す抗がん剤」

経口抗がん剤
カペシタビン
フルオロウラシル
トリフルリジン
など

注射薬
シスプラチン
オキサリプラチン
カルボプラチン
ゲムシタビン
イリノテカン
フルオロウラシル
パクリタキセル
ドセタキセル
ドキソルビシン
などなど

 

ここで全ての抗がん剤を記載すると多すぎて大変なことになってしまうので省略させてください笑


これら「細胞を殺す抗がん剤」は、悪い細胞も殺しますが、良い細胞も殺してしまいます。

 

悪い細胞=がん細胞は成長のサイクルが非常に速いという特徴を持っています。

この特徴を狙っている抗がん剤は体の中のがん細胞ではない成長のサイクルの速い細胞も殺してしまうのです。

 

それは例えば口の中だったり、食道、胃、腸だったり、頭皮だったり、骨髄だったりします。


これらが抗がん剤によって影響を受ければ口内炎、下痢、食欲不振、嘔気、脱毛、骨髄抑制という副作用になって現れます。

 

よく抗がん剤は副作用との戦い、と言われてテレビでも抗がん剤を使用する患者さんの役は脱毛などで苦しむシーンが描かれますね。

 

あれはこういった種類の抗がん剤によって起こる副作用です。昔からある薬なので抗がん剤、というとこういった薬のイメージが強いでしょう。


「特定の分子を狙って効く抗がん剤」

経口抗がん剤(商品名)
エルロチニブ
ゲフィチニブ
アファチニブ
クリゾチニブ
イマチニブ
パゾパニブ
アビラテロン
スニチニブ
ソラフェニブ
オシメルチニブ
エベロリムス
エンザルタミド

などなどなど...

 

注射薬
ニボルマブ(オプジーボ)
ベバシズマブ
リツキシマブ
トラスツヅマブ
トラスツヅマブエムタンシン
セツキシマブ
パニツヅマブ
ラムシルマブ
などなどなどなど

 

枚挙に暇がありませんね。このあたりは近日とてもホットな分野で世界中の製薬メーカーが競って薬を開発しています。

 

この薬たちは体の中の特定のがん細胞を作る分子を狙って攻撃しますので、副作用が比較的限局的で、軽く済みます。


しかも効果が高いものもありますので多くの方が使用しています。

 

細胞を殺すタイプの抗がん剤も昔から使用されておりデータが豊富で今でも現役の薬剤も多いのですが、癌に対する薬物治療に関するガイドライン(教科書みたいなもの)でもどんどんこういった特定の分子を狙う薬剤が登場してきています。

 

我々としても勉強が欠かせない分野ですね!

 

2.抗がん剤の中でもどうしてオプジーボは注目されているのか?

 

それは,「今までに無い作用機序」だからです。


オプジーボの事を「免疫チェックポイント製剤」とも言います。

 

人間の体には無数の免疫機能が備わっていて、その免疫機能はなんとがん細胞とも戦ってくれています。


その免疫機能の中で働いている「T細胞」という細胞があるのですが、オプジーボはこのT細胞を増やしたり活性化することでがんと戦うようにしてくれるのですね。

 

オプジーボはこのような作用機序で高い抗がん作用を認められており、現在では悪性黒色腫と肺がんのみに適応がありますがいずれ腎がんや消化器がんのような他の癌腫にも適応されるようになってくるでしょう。

 

こういった「今までに無い作用機序」という点でオプジーボは大注目の薬なのです。

 

そして、注目の点はそれだけではありません。


新しくて、よく効く抗がん剤、といえば、、、予想がつくのではないでしょうか。


そうとっても「高額」なのです。

 

20mg瓶で約15万円、100mg瓶で約73万円します。
肺がんの場合、1回3mg/kg(体重)を2週間間隔で投与しますので、60kgの人には2週間で60×3=180mgですから、約133万円かかります。

 

2週間でこれですので、容易にすぐに8桁の金額に達しますね。

 

もちろん、これは自己負担できませんよね。
日本には高額医療制度という制度があり、一定額以上は保険が負担してくれます。
しかしこの保険料は我々の税金から成り立っており、有限のものです。

 

もちろん、がんで苦しんだり亡くなる方が元気になったり生き延びられる事は非常に喜ばしいことです。

 

ですが、そのために国の財政が破綻してはさらに多くの人が困ってしまいますね。

 

そういった意味でも広い意味で「有益性」が問われている薬剤なのです。

 

3.最近発表された安全情報に関して

 

分子を標的にした肺がんの抗がん剤の中で上に挙げた「ゲフィチニブ」、「エルロチニブ」、「アファチニブ」、「オシメルチニブ」などの薬はEGFR-TKIという分類の薬になります。


これはEGFRというものを標的にして、その中でもチロシンキナーゼという酵素を阻害しますよ、という意味なのですが、その中でも「オシメルチニブ」という薬をオプジーボの後に使用すると間質性肺炎のリスクが上がるという安全性情報が出ています。

 

間質性肺炎とは肺炎の一種で、場合によっては死に至る重篤な副作用の一つです。


めずらしい副作用でもあり、初期症状は風邪のような咳で、早めに対処すれば死に至ることはありませんが、風邪と区別がしにくいので気がつきにくい副作用でもあります。

 

この間質性肺炎が起きやすくなるということが本当に直接の原因なのかはまだわかりませんが、オプジーボを使用した後にEGFR-TKIを使用した患者さんの中でも死亡例
が報告されており、特に注意喚起が促されています。

 

オプジーボもオシメルチニブも、非常に新しい薬ですのでデータが少なく、オプジーボを使用し終わった後どれほど待てばEGFR-TKIを使用できるのか、EGFR-TKIを使用した後にオプジーボを使用できるのか、といったような問いに対しては答えがまだ出ていません。

 

またオシメルチニブ以外のEGFR-TKIを使用しても良いのか、という問いに対してもデータがそろっていないため現時点では使用しないことが望ましいとされています。

 

4.まとめ

 

新しい薬が増えればそれだけ問題点が起き、データの集積が求められます。

 

藁にもすがる思いで抗がん剤を使用している患者さんの気持ちを考えると、「データが無いのでわかりません」と言う言葉は薬剤師として本当に使いたくありません。

 

しかし現実的に、ブラックボックスであり、全くわかっていないことがあることも現状です。

 

海外のように自己責任で薬を使用できる事も善し悪しでありまして、「自己責任で使用したから何が起こっても知りません」とか、「患者さんが望んだから重篤な副作用が起こる可能性を知りながらお薬を使用しました」といった事は医療従事者の倫理観の中ではなかなか出来ることではありません。


また、可能性に希望を託して薬剤を使用し、副作用を背負いながら戦う事と、副作用を考慮して薬剤を使用しない事は、どちらが幸せなのか私たち医療従事者が決めることでもありません。お金の使い方も人それぞれの価値観があります。

 

がんという病気と戦う患者さんと患者さんの家族のお気持ちは誰にも推し量ることはできません。

 

こう言ったことを踏まえると、患者さんの本当の希望に寄り添うためには薬剤師として出来る限りのデータと知識を患者さんと共有する事は当然として、人間として薬そのものが本当にその人に必要なのかどうかも含めて人と人との対話を重ねることが重要なのだなと日々痛感します。