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【大口病院さん】:殺害事件の全国の医療施設への影響と対応の方針は?

 こんにちは!Ph.塩です

 

今回は「大口病院さんの事件の全国の医療施設への影響」です。

 

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画像著作者youtodesign.com

 

まずは以下のニュースをご覧ください。

 

yahoo!ニュース 朝日新聞デジタルより引用

 

入院患者2人が相次いで死亡する事件が起きた大口病院は「当分の間」として、外来診療を取りやめ、入院患者のケアに専念している。女性職員の一人は28日、「私たちも精神的に参っている。何よりも患者さんに迷惑になっているのではと心配です」と話した。

  女性によると、高橋洋一院長からは「身を引き締めて仕事に臨むように」と話があったという。「どういうつもりで犯人がやったのかわからないけれど、職員は心を痛めている」と話した。

  病院幹部によると、苦情の電話が一晩に50件ほどにのぼった日もあったという。「『とんでもない病院だ』『人殺し!』と電話口で叫ばれ、職員が憔悴(しょうすい)している。異常事態だ」と自らも疲れた様子で漏らした。(天野彩、国吉美香)


この大口病院さんの事件は連日テレビでやっており、ネットニュース、新聞、様々なところで目にしない日はないほどに取り上げられているためにもはや説明は不要でしよう。

 

大口病院さんの事件は「殺害事件の可能性」であり、他の施設で起こる自然死、もしくは医療ミスとは切り離して考えていかなければいけません。

 

しかし、毎日患者さんに接していると話題に上ることがあります。こんな時にどんな対応をすればよいのでしょうか?

 

 目次:

1.この事件が無くても「自分はモルモット」とうい認識が入院患者さんの根底にある

2.大口病院さんの職員が全員悪いわけでは無い。

3.大口病院さんの事件のような犯行は他施設でも可能か?

 

1.この事件が無くても、「自分はモルモット」という認識が入院患者さんの根底にある。

 

私たちが毎日仕事をしていると、目の前にある血やOPE、薬物投与などがごく当たり前の毎日に感じられてしまいます。

 

しかし例えば胆嚢摘出OPE目的というOPEで入院してきている患者さんは人生の中でも1度あるかないかの一世一代の大仕事、のように気負ってきていることも忘れがちになってしまいます。

 

胆嚢摘出OPEは毎日ほぼ数人行われており、皆さんに使ってもらっている決まった薬剤を使用し、決まった説明をして、看護師さん達も決まったケアをしてきます。

 

これは「クリニカルパス」と呼ばれておりとても大事なことで、医療の標準化、均一化などを計るために施設で取り決めた事を行っているのです。

 

このクリニカルパスを適応する度に同じ事を繰り返すのですから医療従事者にとってはやはり毎日のルーチンワークとして当たり前の事に感じられてしまいます。

 

そこで使う薬も、手術の術式も、術後の経過ももちろん説明はありますが、自分の身を誰かに切ってもらい、誰かに用意してもらった薬を自分が飲まされるために患者さん達の心の中には「自分はモルモット状態である」という思いが抜けません。

 

そこの所の認識のズレを忘れがちになってしまうと、患者さんはどうしても不安になってしまいます。

 

先日、当院の患者さんでも大口病院さんの件を例に出しながらお怒りの方がいらっしゃいました。

 

「薬の説明が足りない、毎回飲むときに説明して欲しい、そうでないと毒を盛られていてもわからない」、とのことでした。

 

もちろん薬の説明はしています。しかし毎回全ての薬に関して説明していると時間が足りませんし、この方は家から持ってきた薬も多かったのでご本人も薬一つ一つを覚えることはなかなか難しい様子でした。

 

服用しているお薬の一覧表を作成し、病室に貼っておくことで事なきを得ましたが、このような思いは患者さん全員に共通してあるのではないかと思います。

 

「まぁ、後はまな板の上の鯉だ」、だとか、「後はよろしく頼むよ、煮るなり焼くなりしてくれ」とか、そう言った言葉を聞くこともありますがこれも「自分じゃどうしようもない」という思いから出てくる言葉でしょう。

 

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画像著作者:luigi morante
このような思いを背負った状態で大口病院さんの事件をテレビで見ていると恐怖心が沸いてくる事も当然だと思います。

 

自分だって嫌ですからね笑

 

悲惨なジェットコースターの事件後に遊園地に進んで行きたくならないような気持ちを想像するとわかりやすいでしょうか。
はたまた、バンジージャンプのひもが切れた事件の後にバンジージャンプに挑戦する気持ちでしょうか。

 

絶対安心でいて欲しいところが安心ではなかった、というのはあまり考えたくないですよね。

 

こういった気持ちを汲まないと、「あれは事件だから関係ないですよ~」という説明だけでは不安というものは無くならないと思います。

 

そう言ったところでも患者さん一人一人の不安や心配事と向き合って「信頼関係」を普段から積み重ねておくことが大事なことだと思います。

 

2.大口病院さんの職員が全員悪いわけではない

 

まだ未確定なので「殺害事件」と称されていますが、今回の事件は誰かが何かをしないと起きないことです。

 

そう言った意味では犯人を突き止める事が大好きな日本人の気質としては格好の話題となり、冒頭でも述べたような病院たたきが始まるわけですが、病院の職員が全員悪いわけではありません。

 

というより、むしろほぼ悪くないでしょう。一部の人の犯行です。

 

そこで病院全体を叩いたところで意味はありませんし、犯人が見つかるわけでも亡くなられた方が戻ってくるわけでもありません。

 

大口病院さんの職員全員で全て隠す事無く問題解決に当たるべきだとは思います。

 

そして、「4階病棟でいじめがあった」などの話題も当然上ってくるのですが、間違いなく医療施設に人間関係のトラブルはつきものです。

 

いじめの程度にもよりますが、医療従事者の転職の理由に最も多いのは「人間関係」だとされています。

 

人の生き死にに隣り合わせの職場では神経がささくれ立ってしまって人間関係の摩擦が大きくなる事が多いのは確かに医療従事者の悲しい所かもしれません。

 

しかしそう言ったところを取り上げても何にもなりませんし、むしろ病院という職場にマイナスなイメージがついてしまいます。

 

毎回事件が起こる度に思いますがマスコミはそこで実際に働いている人、自分たちが全国ニュースで取り上げることによって影響が出る人たちの事も考えて欲しいですね。

 

3.大口病院さんの事件のような犯行は他施設でも可能なのか?

 

このような事はしばしば聞かれます。 

 

病院という場所は毎日違った人間が色んな所に出入りする職場です。
通常のオフィスやビルではそこの職員以外が出入りすること自体が職員証なしでは不可能ですし、知らない人は目立つでしょう。

 

もちろん病院にもスタッフのみが出入りする所には職員証や暗証番号などで出入りするように設定されていますが、それでも患者さん以外にも一つの職種に限らずに多数の職種が出入りしています。

 

OPE室にOPE着を着ないで白衣のまま入ってきたらさすがにおかしいですが、薬局に看護師さんが出入りする、ナースステーションや診察室に薬剤師が出入りすることは日常茶飯事です。


こうした多種の人間が出入りする病院では今回の大口病院さんの事件のような犯行は正直言ってやろうと思えば可能でしょう。


しかし、もはやこれは幼稚園児が学習するレベルの個人のモラルの問題であり、「人の物を盗ってはいけませんよ」、とか、「他人に暴力をふるわないようにしましょう」というレベルの問題です。


可能だからやるとかやらないとか、そう言う問題ではありません。

 

そのように考えると、大口病院さんの事件の例で不安に思うことは気持ちはわかりますが意味が無いことだと思ってもらえるかもしれません。


隣の県で強盗殺人事件が起こったとしても外出を控えないのと同じです。

 

今回は人数が多いことも注目されていますが、根本的には同じ事です。日本の病院という施設自体の機能を疑ってかかるべきではないと思います。

 

今後の対策は各病院の院長指示に基づいて病院職員へのモラルの徹底、セキュリティの見直しを各院内で行うことではないかと考えています。

 

あまりに異質な事件ではありますので静観という選択肢も大いに有りだと思います。

 

10/1 追記
2名の記者さんが病院内を撮影しようとしたとして逮捕されたようです。

 

このような事をして何になるのでしょうか?


病院の薬剤の動きや職員の動線から事件の詳細を記事にするつもりなのかもしれませんが、それが何の意味を持つのか甚だ疑問です。

 

また以前この事件に関する検証番組をやっていましたが、どこかのDrがやってきて、「この点滴手技の際に毒物を入れる事が出来る」とか、「この手技の際は一人になるので犯行が可能だ」とかをコメントしていました。

 

このことも当院の入院患者さんは気にされています。

 

本当にそういった無責任な発言はやめていただきたいと思います。

 

私たち医療従事者は医療やケアのプロであり、犯罪予防のプロではありません。こういった発言が全く関係ない医療従事者の業務や、これから医療をうける患者さんの気持ちに何も影響が無いと思っているのでしょうか?

 

各施設でこの事件を受けて監視カメラを導入するとか、職員の教育を再度行うといったことがもしあれば、その施設が独自に判断して行うことなので問題有りません。


しかし、その判断にはワイドショーや検証番組の意見は当然ながら全く参考にされていません。

 

このワイドショーや検証番組は一般的に医療に関係ない人に向けられたものであり、不安感や不信感を煽るのみです。百害あって一利なしです。

 

世の中の問題点はもっと複雑に出来ています。ある結果は一つの原因に基づいて起こっている訳ではありません。

 

ですがワイドショーや検証番組、雑誌は「石があったからこけた」ということを、「凶悪な石が故意に設置され、誰かが殺害目的で転ばせた。これはあなたにもいずれ降りかかる問題かもしれない」というように決めつけ、誇張し、目をひくように作成されています。

 

この「石があってこけた」ということも、その人の体調が悪かったかもしれないし、石が無くてもこけたかもしれない。風が強くてよろけたのかもしれないし、靴の調子が悪かったのかもしれません。石はたまたま置いてあっただけかもしれませんし、つまずいてこけることは今更言われなくても誰もが人生一度は経験することです。

 

無数に可能性がある中で、世の中に「うける」情報のみをピックアップして説明するのがマスメディアです。

 

事実が解明されれば病院側から正式な発表があるでしょう。それまでデバガメ根性満載なエセ情報に踊らされないでいたいものです。

 

 


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